2017/04/30

憲法の日を前に

漫画家、弘兼憲史(1947年生まれ)の名前には「憲」の字がある。

日本国憲法ができた時、子供の名前に「憲」の字をつける親が多かったそうです。私のおやじもそう。「新たな歴史が始まる」と喜んで、私を「憲史」(けんし)と名付けたと聞きました。
刻々と変わる世界情勢に柔軟に対応できるような憲法にすべきだと思います。
(朝日新聞、2017年4月30日朝刊)。

 「柔軟」はいっけんいいことばのように聞こえるが、要は、そのときどきの情勢に流されること。しかも、肝腎の「世界情勢」の理解はいかようにもなる。恣意的だ。そんな怪しいものに「柔軟に対応」して、いったいどうなるのか。
 憲法の役割は理想を追求すること。おやじさんの思いは伝わっていないのだろうか。

2017/04/22

非匿名な関係は協力を促す

「名前を知っていると互いに協力を促すことを発見 北海道大学など」
(大学ジャーナル オンライン編)http://univ-journal.jp/13292/

 北海道大学電子科学研究所のマルコ・ユスップ助教らの研究グループは、ペアを組んだ実験参加者が互いの名前を知っている非匿名(顕名)状態の方が匿名状態よりも相互協力を促すことを発見した。

 文明的日常生活には相互協力が不可欠である。ダーウィンの自然選択説(生物の進化を説明する理論)に従えば、利己的行動が有利に働くことが多く、人間(および動物)が進化過程でどのように協力的行動を獲得してきたのかは、未だ十分に解明されていない。

 そこで研究グループは、実験参加者が自己利益(利己主義)と共通利益(利他主義)のどちらを選択するのかを調べる「社会的ジレンマ実験」を通じて、人間社会における協力行動の進化メカニズムの理解促進を目指した。

 実験は、中国の雲南財経大学で154名の学生を対象に行われ、匿名、顕名の2条件が設定された。実験参加者は相手に対し、協力、裏切り、罰のいずれかを選択し、両者の選択に応じた報酬が与えられた。

 この選択を繰り返し行った結果、顕名条件では、匿名条件よりも協力頻度が大幅に増加し、罰で始まった場合でも協力的選択へと関係が修復される確率が高かった。匿名条件では関係が悪化していく傾向が強いのに対し、顕名条件では良好関係が確立あるいは維持される確率が高かった。

 本研究の興味深い知見の一つは、顕名条件でも、相手のことを知らない振りをして裏切り続けることが有利であるにも関わらず、実際には協力行動が促進され、結果として成功(報酬の増加)が促進される点である。この結果は、合理性は人間の判断基準の一部に過ぎないことを改めて強調する。

 今回の実験結果は、社会的ジレンマに直面した時の意思決定が、合理性だけでなく、さまざまな認知バイアス(判断における合理性からの系統的逸脱)に影響されることを示唆する。

 今後、認知バイアスと意思決定の関係を明らかにすることで、合理的思考に基づく意思決定を促すことができると期待される。将来的に、環境保全交渉といった国際的意思決定の場で、目標とする合意に到達するために役立つことも期待される。

原論文 Onymity promotes cooperation in social dilemma experiments

2017/04/18

Ogihara 2015:個人主義とユニークな名前

asarinさんの輪読ゼミまとめサイトから。

Ogihara, Y., Fujita, H., Tominaga, H., Ishigaki, S., Kashimoto, T., Takahashi, A., Toyohara, K., Uchida, Y. (2015). Are common names becoming less common? : The rise in uniqueness and individualism in Japan. Frontiers in Psychology.

日本の親は「ありふれた漢字だけどユニークな読み方」の名前をつけるようになった.そのことは個人主義の程度と正の相関を持っている

要旨(日本語訳)
https://sites.google.com/site/kgasasemi/home/2015rindoc_asarin/ribennoqinhaarifuretahanzidakedoyunikunadumifangnomingqianwotsukeruyouninattasonokotohagerenzhuyinochengdutozhengnoxiangguanwochitteiru

We examined whether Japanese culture has become more individualistic by investigating how the practice of naming babies has changed over time. Cultural psychology has revealed substantial cultural variation in human psychology and behavior, emphasizing the mutual construction of socio-cultural environment and mind. However, much of the past research did not account for the fact that culture is changing. Indeed, archival data on behavior (e.g., divorce rates) suggest a rise in individualism in the U.S. and Japan. In addition to archival data, cultural products (which express an individual’s psyche and behavior outside the head; e.g., advertising) can also reveal cultural change. However, little research has investigated the changes in individualism in East Asia using cultural products. To reveal the dynamic aspects of culture, it is important to present temporal data across cultures. In this study, we examined baby names as a cultural product. If Japanese culture has become more individualistic, parents would be expected to give their children unique names. Using two databases, we calculated the rate of popular baby names between 2004 and 2013. Both databases released the rankings of popular names and their rates within the sample. As Japanese names are generally comprised of both written Chinese characters and their pronunciations, we analyzed these two separately. We found that the rate of popular Chinese characters increased, whereas the rate of popular pronunciations decreased. However, only the rate of popular pronunciations was associated with a previously validated collectivism index. Moreover, we examined the pronunciation variation of common combinations of Chinese characters and the written form variation of common pronunciations. We found that the variation of written forms decreased, whereas the variation of pronunciations increased over time. Taken together, these results showed that parents are giving their children unique names by pairing common Chinese characters with uncommon pronunciations, which indicates an increase in individualism in Japan.



個性的な名前を与える傾向が増加している -日本文化の個人主義化を示唆(京都大学、2015年10月22日)

京都大学、新生児の名前から日本文化の個人主義化を示唆(大学ジャーナルオンライン編集部、2015年11月1日


読みのユニークネス追求は「戸籍」に文字しか登録されないことも関係していよう。使える文字に制約が課せられていることも。

おまけ
▼tabuchi編
Lauren A. Winczewski, Jeffrey D. Bowen, and Nancy L. Collins (2016). Is empathic accuracy enough to facilitate responsive behavior in dyadic interaction? :Distinguishing ability from motivation. Psychological Science, 27(3): 394-404.

Abstract
Growing evidence suggests that interpersonal responsiveness—feeling understood, validated, and cared for by other people—plays a key role in shaping the quality of one’s social interactions and relationships. But what enables people to be interpersonally responsive to others? In the current study, we argued that responsiveness requires not only accurate understanding but also compassionate motivation. Specifically, we hypothesized that understanding another person’s thoughts and feelings (empathic accuracy) would foster responsive behavior only when paired with benevolent motivation (empathic concern). To test this idea, we asked couples (N = 91) to discuss a personal or relationship stressor; we then assessed empathic accuracy, empathic concern, and responsive behavior. As predicted, when listeners’ empathic concern was high, empathic accuracy facilitated responsiveness; but when empathic concern was low, empathic accuracy was unhelpful (and possibly harmful) for responsiveness. These findings provide the first evidence that cognitive and affective forms of empathy work together to facilitate responsive behavior.

人間関係には他人の気持ちを「正しく理解する」ことより「何とかしてあげたい気持ち」が重要

https://sites.google.com/site/tabuchimegumi/research/2015papers/renjianguanxinihatarennoqichichiwozhengshikulijiesurukotoyorihetokashiteagetaiqichichigazhongyao

そもそも他人の気持ちが理解できた(としよう)時点で、その人は、その他人になってしまう。理解よりも意志。

2017/04/15

同姓同名の前に

きょうのWLMは高(たか)さんの報告。

高さんは、作家の高史明さんと同姓同名。学生時代、彼が編纂した『ぼくは12歳』(1976年刊)を読んだことがある。この本で、はじめて彼の名前も知った。その高さんと同姓同名であることが、若い高さんの誇りかと思っていたら、そうではなかった。史明という個別の名前ではなく、コリアンらしいというカテゴリーレベルで名前が見られた。以下は、『レイシズムを解剖する』の「はじめに」からの引用。
1980年に生まれた私が在日コリアンを巡る問題に対する関心を抱いたのは、"高史明"という名前がコリアンであることを推測させるものであったために子どもの頃に繰り返し投げかけられた差別的な言葉がきっかけであった。


あらためて調べたら、文庫版『新編 ぼくは12歳』には、両親と読者との往復書簡が収録されている。久しぶりに読んでみよう。タイトル買いしそうな『高史明の言葉 いのちは自分のものではない』も。



『レイシズムを解剖する』の装丁は、Studio621の林智子さん(と、珉哲さんも?)が手がけている。

2017/04/11

さくらさんと幸助くん

東京新聞朝刊

「願い込め新1年生」
 2011年3月、東日本大震災の過酷な状況の中で生まれた子どもたちが今春、小学校入学を迎えた。

「震災当日3.11に生まれた(下沢)さくらさん」
 あの寒い日に生まれた。だからこそ、厳しい冬の後で見る人を元気づける桜のように周囲を明るくしてほしい。「さくら」と名付けた(岩手県宮古市)。母の悦子さん(38)

「3日後生まれた(菅原)幸助くん」
 「『幸助』でどうだ」。病室で祐二さん(40)が律子さん(38)に告げた。用意していた名前とは違ったが、律子さんに異論はなかった。「震災で助けられた恩を忘れず、人を助けられる幸せな人になってほしい」。律子さんは祐二さんの思いを理解できた(宮城県気仙沼市)

2017/04/03

タイムトラベル

先月末、「惜別」記念にと、四谷・新宿散策が組まれた。
途中ではお墓ビルも。窓らしい窓がない。コピーは「由緒正しき地で 杜の息吹を感じながら 安らかに眠る。都心で安らかに眠る」。
仕上げは、テルマー湯、そしてゴールデン街
Hさん作成のルート、そしてガイドは、何度も通ったはずの道を一歩はずれるだけで、江戸時代、そして70年代へといざなってくれた。
目をつぶると、今の街並みは消え、当時の喧騒が聞こえてきそうだった。雨が、夕闇が幸いした。
ふしぎな一日だった。

2017/04/02

「一村」と「薫」

東京新聞夕刊 4月1日。

土曜訪問「亡き人に正義を返す」

ルポ 思想としての朝鮮籍』著者、中村一村さんのインタビュー記事。
一村はイルソンと読む。生い立ちを聞いてくれた在日の信頼する大学教員が「じゃあ、イルソンさんですね」と呼んでくれた。
中村さんは日本(父)と朝鮮(母、在日朝鮮人2世)のダブル。
朝鮮や韓国を扱った本では、当然ながら、名前にふれられることが多い。読もうと思っていた本だ。
中身は「在日の先達」6名からの聞き取りである。聞き取りといえば、『在日一世の記憶』や『在日二世の記憶』をすぐ思い浮かべる。中村さんのこの本は、出田さん(記者)「も悔しさに震え、涙がこぼれそうになる。人ごととして描写していない」。
日朝両方のルーツを持つことで、同じ在日からも疎外される。「人生で初めての『イルソンさん』という呼び掛けが、どれほど優しく響いたことだろう」と出田さんは書く。

コンパス「名はなんだらう」

記者、樋口薫さんのエッセイ。3人目の子をさずかり、前から命名に頭を絞っていた、という。本人の薫は、庄司薫由来。代表作『赤頭巾ちゃんに気をつけて』を読んだのがハタチ。以来、中の一節「知性とは、なにか大きなやさしさみたいなものを目指していくものじゃないか」に幾度となく道を照らしてもらった気がする、と書く。
「そんな名を自分も付けられるだろうか。思い悩むうち深みにはまった」。

週末は結婚式に出席した。祝辞をスマホ画面を見ながら読み上げるという人がいて、驚いたが、珍しくないのだろう。かれらが最初ではないだろうから。

2017/04/01

ホームページ一新

退職に伴い、ホームページのホーム画面を変えた。これまでの内容は「川浦康至研究室(2005-2017)」に移設。

いずれ場所も変わるかもしれませんが、とりいそぎ。



退職祝に、家族から皮の財布をもらった。こちらも一新。コインの出し入れで内側が黒ずんでいた。

匿名のままでは死ねない

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